【国際誌掲載】ごほうびがなくなっても やる気 はつづく?
このたび、アチーブ進学会の生徒や先生方にご協力いただいた研究が、海外の学術雑誌に掲載されました。
まずは、予備実験に参加してくれた生徒のみなさん、そして研究の趣旨をご理解いただき、温かく見守ってくださった保護者の皆さまに、心より感謝いたします。
以下に、研究の内容をわかりやすくお伝えします。
ぜひ、ご一読いただけますと幸いです。
ごほうびがなくなっても やる気 はつづく?
―― 勉強の「やる気」を高めるヒント ――
【ハイライト】
ごほうびがなくなると「行動」は減りやすい。しかし、「うれしい気持ち」はしばらくは残りつづける。特に「ほめ」は、うれしさと行動の両方を支える可能性がある。
1.この研究で調べたこと
家庭や塾で、こんな場面を見たことはないでしょうか。
ごほうびがある間はがんばれる
でも、ごほうびがなくなったとたん、手が止まる
ほめるとがんばりが続く気がするけれど、本当にやる意味があるのか迷うようになる
そもそも、ほめ方がわからない
この研究では
「ごほうびがなくなったあと、私たちの心の中で何が起きているのか」
をていねいに調べました。
ポイントは
やる気を一つのものとして扱わなかったことです。
2.やる気には「2つの中身」がある
研究では、やる気を次の2つに分けて考えました。
① うれしい・楽しいという気持ち
「この勉強、そんなにいやじゃないな」「できるとうれしい」
② 実際に行動すること
「もう1問やってみる」「自分から机に向かう」
私たちは普段、この2つをまとめてざっくりと「やる気」と呼んでいます。
しかし研究の結果、この2つは必ずしも同じようには変わらないことがわかりました。
3.ごほうび(とほめ)を比べる実験
ごほうびの種類を分けて3つの条件を比べました。
A.お金などのごほうびがある場合
B.ほめられる(がんばりを認めてもらう)場合
C.ごほうびがない場合
最初はそれぞれの条件で取り組み、その後、すべて「ごほうびなし」にしました(ごほうび・ほめをやめた)。
そのときの
うれしい気持ちと行動は一致するのか
もし一致しないならば
ごほうびがなくなったあと
うれしい気持ちと行動はどう変わるのか
をくわしく調べました。
4.ポイント
① お金などのごほうび
ごほうびがなくなると行動は減りやすくなります。
しかし
もらっていたときのうれしい気持ちは残り続けることがわかりました。
言いかえると
やらない(動けない)けれど、いやになったわけではない
ということです。
これは、やる気そのものが消えたのではなく
行動するきっかけを失っただけである可能性があります。
あまり気が進まないことに取り組むとき
ごほうび(お給料)をもらうことが行動の支えになるのは
大人の仕事にも通じるところがありそうです。
② ほめ
ほめられていた場合、ほめがなくなったあとも
行動とうれしい気持ちの両方が保たれやすいことがわかりました。
「認めてもらえた」「わかってもらえた」という経験は
その後も 心の中に残り
行動の支えになりやすいと考えられます。
③ 何もない(ごほうびなし・ほめもなし)
うれしかった過去の経験に引き続いて
見た目の行動が続くと
習慣として身についたように見えます。
しかし
ごほうびやほめが何もなくなると
うれしい気持ちは少しずつ減っていくことがわかりました。
つまり
勉強が楽しくて
毎日、机に向かっているものの
だんだん前ほど前向きになれなくなり
問題を解けてもあまりうれしさを感じなくなる
こんな状態があてはまります。
この状態は
周りからは「やる気があるように見える」ので
少し注意が必要です。
たとえば、勉強や部活、仕事や人付き合いを
ある日突然やめてしまう人の中には
それまで感じていたうれしさや行動することの意味を
感じにくくなっている場合があるということです。
そのため、たとえ楽しく習慣化されている場合であっても
適切なごほうびは必要だと考えられます。
そのような状態を防ぐためには、気合いや努力だけに頼るのではなく
「続ける中で自然に感じられる支え」を意識することが大切です。
そこで注目したいのが
私たちの身近にある「ごほうび」の存在です。
5.ごほうびは、実は身の回りにたくさんある
ここで大切なのは、ごほうび=お金ではない という点です。
私たちの周りには さまざまな ごほうび があります。
ケーキやお菓子
新しいお洋服
自分好みの味のラーメン
スマホ
ふなっしーのぬいぐるみ
お父さん・お母さんの笑顔
友だちとのおしゃべり
おもしろい授業
算数の問題を解けたときの満足感
年表をスラスラいえたときのうれしさ
合宿を最後までやり切った達成感
成績が上がったという実感
大切な人からの愛情
ほっとできる安心感
健康であること などなど
これらはすべて、やる気を高めるきっかけになりえます。
ごほうびは特別なものではなく
日常の中に自然に存在しているのです。
研究が教えてくれるのは
どんなごほうびであっても
「やめたあと」「なくなったあと」をどう支えるかが大切
ということです。
ごほうびやほめによって生まれたうれしい気持ちは
それががなくなったあとも心に残りやすいこと
がわかったことでした。
だからこそ、私たちの周りにある身近な ごほうび を
うまく活かすことが
楽しく継続するためのコツだといえるかもしれません。
こうした研究結果を踏まえると
ごほうびは「使うか・使わないか」ではなく
どのように使い、どのように支えていくかが重要だといえます。
では、これらを子育てや日々の学習に、どのように活かせるのでしょうか。
6.子育て・学習にどう活かせる?
(1)行動が止まっても「やる気がなくなった」と決めつけない
行動が止まっていると
「勉強が嫌いになったのでは?」
「怠けているのでは?」
と感じてしまうことがあります。
しかし本当は
うれしい気持ちは残っているのに
動き出すきっかけが見失っているだけなのかもしれません。
ごほうびやほめを工夫することで
再び動き出せる可能性は十分にあります。
(2)「ごほうびはダメ」と心配する必要はない
「ごほうびをあげると
ごほうび目当てで行動するようになってしまうのではないか」
と心配される方もいるかもしれません。
しかし
ごほうび自体は悪者ではありません。
ごほうびがよくない影響を与える可能性があるのは
・ごほうびが行動の唯一の理由になってしまうこと
・あげていたごほうびを何の支えもなく急にやめてしまうこと
・ごほうびの基準やルールが毎回変わってしまうこと
そのような使い方をしなければ
ごほうびは 心に残り続けるやる気の源
としてうまく働いてくれるはず。
(3)ごほうびをあげるなら「やめ方」「あげたあとのこと」まで考える
やる気のあるなしにかかわらず
ごほうびやほめには
短期的ながらも効果があります。
ただし
いつまで使うのか
やめた(なくなった)あと、何が代わりになるのか
を考えずにあたえると
行動がなくなってしまうことがあります。
最初は ごほうびでそっと背中を押し
その後は
できたこと・工夫したところ・成長したところを
言葉や表情で伝えていく。
こうした流れがあれば
ごほうびは
やる気を損なうのではなく
高め、伸ばし、育てるためのエネルギー
となるはずです。
(4)「ほめ」は、学びの継続を支えやすい
研究で効果が最も安定していたのはほめでした。
家庭や塾では
結果よりも 考え方 や 取り組みの工夫
他人と比べるのではなく 前よりどうなったか
をふりかえらせることで
うれしさと行動の継続が保たれやすくなる可能性があります。
つまり
ほめることは
甘やかしたり相手を操ったりすることではなく
努力や過程に意味があることを
内面に届ける行為なのです。
このような
エビデンスに基づくごほうびやほめの活用は
うれしさと行動の好循環はもたらし
きっと私たちをしあわせにしてくれるでしょう。
こうした本研究の理論的・実践的示唆は
国内だけでなく
研究分野の第一線にいる海外の研究者からも
大きな関心を集めています。
7.海外からの反響
早速、多くの研究者が論文を読んで
フィードバックを送ってくれています。
特に、この分野の第一人者である
カナダのスザンヌ・ヒディ教授が
「とても重要な研究だよ」という励ましのメッセージ(←これも「ほめ」ですね)
をくださいました。
やる気スイッチ を探し求めたこの研究は
世界に先駆けて
やる気を「2つの中身」に分けて考える視点を
示しました。
大切だとされているにもかかわらず
つかみどころのない やる気 というものを
うれしさ と 行動 を分けて調べた研究アプローチは
世界的に注目され始めています。
8.最後に
今回の研究は
大学や研究室の中だけで完結したものではありません。
アチーブ進学会の生徒・先生方の協力があって
はじめて形にすることができました。
これからも
「行動」や「結果」だけで子どもを評価せず
目に見えにくい「うれしさ」や「経験」を大切にする
そんな学びの環境を
生徒や保護者の皆さまと一緒につくっていきたいと考えています。
掲載された論文の題名
Beyond the undermining effect: Extrinsic rewards preserve neural intrinsic reward / 研究のSNS
論文の後ろの方の Acknowledgments という段落に
アチーブ進学会のみなさんへの感謝の言葉
をしたためました。
ご協力いただき、誠にありがとうございました。
(あやべひろあき)



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