勉強の成果に
ごほうびをあげるとやる気が下がる?
の神経科学的証拠
東大市川研OBの村山航さんが
ストップウォッチゲームを使って
アンダーマイニング効果(特に報酬除去効果)を示した
PNAS論文のレビュー
要約
人々は報酬のインセンティブによって積極的に動機付けられているという広く信じられていることに反して、いくつかの研究は、パフォーマンスベースの外的報酬が実際にタスクに従事する人の本質的な動機を損なう可能性があることを示しています。この「弱体化(アンダーマイニング)効果」は、現代社会におけるパフォーマンスベースのインセンティブシステムの急成長を考えると、タイムリーで実用的な意味合いを持っています。それはまた、金銭的インセンティブが単調に動機を高めると仮定する傾向がある経済理論および強化学習理論に対する理論的挑戦を提示します。この挑発的な現象の実用的および理論的重要性にもかかわらず、しかし、その神経基盤についてはほとんど知られていません。ここでは、新しく開発されたタスクを使用して行動の弱体化効果を誘発し、機能的MRIを使用してその神経相関を追跡しました。私たちの結果は、タスクへの自発的な関与の数によって評価されるように、パフォーマンスベースの金銭的報酬が実際に本質的な動機を損なうことを示しています。私たちは、前頭前野と前頭前野の活動が、この行動を損なう効果とともに減少することを発見しました。これらの発見は、大脳基底核評価システムが、外発的報酬価値と内発的課題価値の統合を通じて弱体化効果の根底にあることを示唆している。
背景と問い
経済理論では
金銭的インセンティブを増やしたあとでなくしても
根底にある内発的動機は妨げられないと仮定される
心理学理論(オペラント学習理論/強化学習理論)では
外部からの刺激や報酬が行動を強化する。
刺激や報酬をなくしても元の状態に戻るだけで
負の効果は生じないと仮定
強化学習理論とは
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一方、
先行研究では、
強化子(インセンティブや刺激)を取り除くと内発的動機は弱体化するという結論(アンダーマイニング(弱体化)効果)
しかし
経済理論や心理学理論はこの矛盾を説明できない
神経科学的機序も不明
内発的動機(おもしろさ)の源は?
タスク(問題)で成功する(解ける)とうれしくなる・おもしろくなる(内発的価値; Ryan et al., 1983 ; Deci & Ryan., 1985)
ソマパズル実験(古典心理学)
弱体化効果:
2つの異なるタイプの主観的価値の相互作用による可能性
(外発的)金銭報酬による内発的価値
タスク成功による内発的価値
もし、金銭報酬のインパクト・サリエンシーが大きいと
その報酬がなくなれば負の価値を引き起こす可能性
動機(やる気)の神経機序
その1
ドーパミン作動性報酬ネットワーク
フィードバック(報酬)
→ 主観的信念が評価決定
→ 前部線条体(尾状核)活性化
弱体化関連要因:
金銭的報酬フィードバックと認知的フィードバック(金銭的報酬なしのフィードバック)の両方が作用
→前部線条体(尾状核)と解剖学的に強い関係がある中脳が活性化
∴弱体化効果をタスクのフィードバック=報酬ネットワーク(前線条体と中脳)から測定可能
その2
準備的認知制御(外側前頭前野,LPFC)
※LPFCは目標を達成するための準備的認知制御機能
精神的準備は課題価値によって調整
∴弱体化効果はLPFCから検出可能
デザイン
参加者28人
報酬群
パフォーマンスベース報酬
SWタスクに成功するたびに200円(約2.20ドル)獲得
統制群
参加者報酬のみ
※タスクの金銭的報酬の額は、報酬群の同性の参加者が受け取った金額と一致(意味不明)
自由選択期間
スキャナー後参加者は静かな部屋に3分間放置
SW/WSタスク/小冊子
好きなことをやった
結果
行動
SWタスク(ストップウォッチのボタンを押して5sジャストにするゲーム)をプレイした回数
報酬群>統制群
フェイズ主効果、交互作用なし(SWタスクプレイは増加も減少もしない。群間に差なし)
WSタスク(ストップウォッチが5sで止まったらボタンを押すゲーム)のプレイ数は非常に少ない
→面白くなかった(決まった時間にボタン押すだけだから)
fMRI
第1セッション
タスクの妥当性
グループに関係なく両側前部線条体(尾状核)と中脳で活性化
→ 金銭的報酬が伴うかどうかに関係なく、実験タスクの成功フィードバックは報酬ネットワークをアクティブ化
脳活動
統制群<報酬群
増分は金銭報酬に相当
第2セッション
統制群
第1=第2
報酬群
第1>第2
∴金銭報酬除去によるアンダーマイニング(弱体化)効果
準備的認知制御(LPFC)のタスク要因
タスクキュー期間(課題要因)
WSタスク<SWタスク
つまらない<おもしろい
第1セッション
報酬群>統制群
第2セッション
報酬群<統制群
脳と行動の関係
前部線条体、中脳、およびLPFCの活動の低下は弱体化効果に関連(平均r = 0.65)。
神経弱体化指数
主成分分析の第1成分スコア
変数=コントラスト値:
第1セッションー第2セッション
回帰分析
SWプレイ数~神経弱体化指数(報酬グループ)に負の関係
(標準化β= -0.49、P = 0.037、片側)
SWプレイ数が小さいほど大脳皮質基底核神経ネットワーク活動は減少
考察
大脳基底核評価システムは弱体化効果に中心的な役割
パフォーマンスベース報酬がなくなると
(i)線条体・中脳活動減少
→成功による内発的価値がなくなる
(ii)準備的認知制御減少
弱体化効果は自己決定感の低下と密接に関連
なぜ線条体の活動が減少したのか
線条体は同じ基準で測れない内発的価値を一次元共通スケールで評価
タスク成功の内発的価値と外発的(金銭的)報酬由来の内発的価値を統合
金銭的報酬のインセンティブは顕著性が高い
→タスクの成功の内発的価値を押し下げた
→金銭的報酬がなくなると内発的価値が過小評価
→トータルの内発的価値が大幅に減少
→モチベーションが低下
感想
Deci、Ryanらの古典心理学パラダイムに沿って
アンダーマイニング効果を実験的にうまく操作された研究
第一著者はモチベーション研究の第一人者ということもあり理論構築にも深みがある
ただし、線条体は内発的価値をどのように評価しているのかという疑問が残る
SWタスクはおもしろく、もし一次元スケールで統合評価されているとすると
報酬を取り除いた後も、内発的価値は存続、あるいは新たに生起された可能性があったはず
Izuma, Saito & Sadato.(2008) によれば、金銭的報酬(二次的)による線条体活動へのかなり効果は大きい(>社会的報酬、一次的)。
本研究においても、金銭的報酬(二次的)>成功による内発的価値(一次的)
わかりやすくて定量的な報酬が線条体への影響が大きいのか
影響が大きい報酬の除去は小さい報酬の効果を相殺してしまうのか
という疑問がわいてくる
当報告では、報酬のインパクト、サリエンシーが
アンダーマイニング効果の引き金となるとしているが
動機づけを社会生活に応用するためには
今後それらの実用的可能性を明らかにする必要があるだろう