災害要因は組織と個人のどちらにあるのか

廣瀬文子, 小島三弘, 長谷川尚子, 高野研一, 庄司卓郎, & 鈴木芳美. (2001). 組織要因と企業の安全レベルに関する調査研究 複数業種間の比較. 人間工学, 37(4), 169-184.

要約


組織における安全意識, 管理, 組織風土といったものが, 企業の安全レベルにどのように影響を及ぼしているか, そして, これらの要因に業種較差があるか否かについて調査・分析した. 調査対象は, 建設業・化学業および製造業とし, 質問紙を各組織の本社安全管理担当部門に対して送付した. 建設業とその他の2業種との間に以下のような相違が見られた. (1) 管理に関して, 建設業は他業種に比べ, 組織内での安全に関するコミュニケーションおよび, 安全管理制度についてより良い特徴をもっている. (2) 組織風土に関して, 建設業については, 伝統的, 成果主義的, 安全重視という特徴がある. (3) 化学業および製造業は, 参加型の安全活動を含む持続的な安全活動を行っている. 次に, 労災件数の多寡と各組織要因との関係における業種較差としては, 以下のようなものがあげられた. (1) 建設業においては, 労災の多寡の違いによる差は見られない. (2) 他の2業種については, 労災件数の少ない企業の方が, 安全に対して前向きな組織風土を備えており, (3) 種々の安全制度や活動に対して積極的に取り組んでいる.(抄録より)

安全組織要因モデル


(Takano et al., 1999)

Level 0
安全パフォーマンス:トラブル発生率(度数率)
Level 1
安全行動:観察可能な行動
Level 2
安全意識:安全留意の程度
Level 3
安全管理:行動や意識に作用する制度
Level 4
組織風土・文化:暗黙ルール・慣習・価値観
Super level
社会環境:世論や住民意識(ここは未定義)

分析


1. 災害発生状況
2. 安全意識
3. 安全制度
4. 安全活動
5. 組織風土・文化
に関する質問紙調査(5件法)
(2-4) は合計点をスコア化

因子分析
7因子を抽出
・風通しのよさ(必要な情報は十分伝わっている、など)
・不満(スタッフが不足、など)
・参加型活動(任務分担の定期的な見直し、など)
・体制整備(安全方針施策の明文化、など)
・関心度(安全方針施策の明文化、など)
・行政の介入(行政がもっと積極的に)
・マニュアル化(マニュアル化されている)

考察


建設業は安全意識が高い
しかし、事故が多い

化学・製造業は安全意識と事故は関連

化学・製造業は規模が大きい方が事故が少ない
しかし、建設業では従業員数に応じて事故が増える


建設業の事故原因は個人レベル(墜落・転落など)
個人要因に対処する必要がある
組織要因の影響が小さい
重層下請け構造」「単品受注生産方式」のため

調査先が安全衛生部門だったため、個人レベルの実態を調査できているとはいえない

何のため?意義は?


安全対策技術は品質改善に比べると向上させにくい。
組織要因と災害との関連を産業別に比較したもの
建設業の特異性は浮き彫りにされた
建設業の安全意識は高いが、サブコン、作業員個人レベルへの教育や意識向上はむずかしいということ
建設業は化学・製造業に比べると作業場の安全体制を機能させにくい可能性がある

検討すべきこと


個人レベル/協力会社への効果的な教育・トレーニング方法
➝口頭や文書で伝える指導は限定的である可能性
➝コントロールできていない協力会社への調査が必須

建設作業場の安全体制の規格の遅れへの対処(化学・製造業との違いに着目)
➝「単品受注生産方式」の場合より高度な知識が必要か
資格・講習の導入は一案(管理者のための資格はあるが作業者のための資格はないかもしれない)

※研究ノートのため、拙文、お見苦しい点、ご容赦ください

綾部 宏明(あやべ ひろあき)

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