意思が弱い子は三日坊主
よく耳にする精神論
そりゃそうなのだが
意志の弱い子には
身もふたもない話
私たちは毎日
歯をみがき、風呂に入り、着替えをし、決まった時間に仕事(勉強)し、現実的には、たくさんの習慣化に成功している
洗顔や入浴に強い意志が必要だろうか?
気合を入れて顔を洗う人や、決心してお風呂に入る人はあまりいないはず
そもそもストイックな習慣化は息が詰まる
ある研究によれば、私たちの生活の45%は習慣的な行動だという
必ずしも必要とはいえない行動まで習慣化(たとえば、スマホ?)されていることを考えれば、学習もある程度は習慣化で成り立つはずだ
認知心理学的に
めんどくさいなぁ(認知負荷)
今のままで問題ないという意識(心理的慣性)
が習慣化のさまたげとなるとされている
これからやろう!
と思っているときに
お母さんから
「勉強しろ!」
といわれて、むかっとくるのは
自分では予定している行動(?)の優先順位の変更をうながされたり
認知負荷や心理的慣性と一生懸命戦っているのに打ち勝てないでいる自分を否定されたりしたから
だから
行動のわずらわしさ(=認知負荷)を小さくして
行動を当たり前にする( < 心理的慣性)ことが
習慣化のコツ
ということになる
そこでひとまず
行動主義の知見を整理する
行動強化スケジュール
Schedules of reinforcement
アメリカの心理学者スキナーらが考案した
オペラント条件づけの強化スケジュール
つまり
どの段階でどのように行動を強化するか を示すルールのこと
強化スケジュールは 2つの要因に焦点に当てている
・報酬(強化子)を与える間隔
固定/ランダム
・報酬の割合(比率)
固定/可変
彼らはそれらを組合せた4種類の 部分強化スケジュール を実験的に示した
以下、例を交えて整理する
パターン1
定期的にごほうびをあげる
固定インターバル(間隔):Fixed interval (FI) 比率固定
指定された時間が経過した後にのみ応答(行動)が強化される(報われる)
こんな場面
決まった日時に見回りする先生が、やってくるころになると生徒は熱心にやるが、こないとわかっている時間はぐだぐだになる
介入例
毎週土曜日に宿題を点検してしっかりとできていたらごほうびをあげる
行動強化効果
中程度(ただし、点検している期間だけ)
よい点
身につきやすい
土曜日(点検日)が近くなるとまじめにやる(木、金、土)
よくない点
日曜日以降(点検後)はさぼりやすい(日、月、・・・)
ポイント
子どもが予測できるサイクルであること
× 点検をやめるとやらなくなる(点検しないことが予測できるから)
◎ 習慣化の信頼性は高い(身につきにくい子には短い間隔で習慣化を図る必要がある)
身近な例
定期テストが近くなると熱心に勉強する(終わるとのんびりしてしまう)
短時間しかなくて毎日同じ時間にゲームする
パターン2
不定期にごほうびをあげる
ランダム・インターバル(バラバラな間隔): Variable interval (VI) ; 比率固定
予測できない時間経過後に応答(行動)が強化される(報われる)
こんな場面
先生はきまぐれにぬきうちテストをする。しかし、いい点をとれると定期テストの点数よりも高い評価をくれる
介入例
7日後、13日後、30日後、33日後、50日後、など不定期に点検。その時にしっかりとできていたらごほうび
行動強化効果
中程度(さらに安定しやすい)
よい点
ふだんからまじめにやれるようになる(いつくるかわからないから)
よくない点
習慣が身につかない子には効果が限定的(ごほうびに魅力があるか、労力を伴うペナルティがなければ忘れてしまう)
ポイント
いつくるかわからないけど、必ずテストがあることを子どもが意識していること
× サイクルやパターンに気づかれると固定インターバル(FI)と同じ効果に
◎ 習慣が身につきやすい子の持続に効果的
身近な習慣例
・あの先生はぬきうちでノートを集めて点数をつけるので、いつでも出せるようにノートをていねいにまとめている
・連絡がきてるかもしれないと思って、ひんぱんにSNSをチェックする
パターン3
きまった量(比率)のごほうびをあげる
固定比率: Fixed ratio (FR) ; 間隔固定(毎回)
指定された数の応答(行動)の後に強化される(報われる)
こんな場面
ノートを100ページ書けたら先生がよい成績をくれる(成績がついたらもう書かない)
介入例
決まった作業量に対して決まった量のごほうびをあげる(出来高制)
行動強化効果
高い(とりあえずやる だだし再開するためには新たな動機が必要)
よい点
必ずやりきれる(ごほうびが必要なら)
よくない点
いったんごほうびをもらうと、次の作業にとりかかりにくくなる(必要なければ休む)
ポイント
子どもが必要とする報酬をあたえられること
× 満足したら(必要なくなれば)やらなくなる
◎ 報酬そのものよりも報酬を得られる機会や行動に喜びを感じられるようになれば効果が持続
身近な習慣例
・がんばり表の空らん全部にシールをはってもらうために計算ドリルを毎日やっている(完成したらお休みする)
・10枚たまったらラーメンが無料になるクーポン券を集めている(無料で食べたらしばらくいかない)
パターン4
不定量(比率)のごほうびをあげる
可変比率: Variable ratio (VR) ; 間隔固定
予測できない数の応答(行動)の後に強化される(報われる)
こんな場面
授業に出席すればサイコロをふることができ、その目の数の点数分が定期テストの得点に加算される
介入例
作業量にかかわらず決まっていない量のごほうびをあげる
行動強化効果
高い(しかも安定)
よい点
とりあえず行動できるようになる
よくない点
行動の内容(質や量)を向上させることは別問題
ポイント
とにかく行動させることを優先すること
× 刺激や関心がなくなるとやめてしまう(コントロールできてフィードバックがあるとなおよい)
◎ 行動がメリットにつながれば効果的(習うより慣れろ系の習い事〔そろばん、英会話など〕、やるだけで成果がでる)
身近な習慣例
・先生の話がおもしろいので休まず授業に出席している
・ギャンブル、たからくじ、懸賞プレゼントなどの魅力にとりつかれている
やらせるために
ごほうびをあげていいの
自分の勉強をしているだけなのにごほうびをあげる(モノで釣る)のはどうなの
ごほうび という言葉がでるとこんな心配がつきもの
モノで釣ってやらせるのは教育的に有害だという崇高な意見
ところが
大人だって給料をもらわずに働けるだろうか
また、働いているのは給料につられているからだろうか
報酬と行動には切っても切れない関係があることに気づくだろう
つまり
ごほうびそのものに罪はなく与え方がポイント
反対に
いつも要求ばかりで何もごほうびを与えずにやらせているのは
なんらかの力で強制しているだけなので自立心は育たない
それだけでなく
獲得するために挑戦できない子になってしまう
たしかに
主体的に取り組んでいる行動にごほうびをあげると楽しさが失われてしまう現象はよく知られている(アンダーマイニング効果)
だから、そうならないように工夫する必要はある
しかし
モノをあげてもコトバでほめても、脳の受け止め方は同じ
どちらも 脳部位(側坐核)が活性化してドーパミン(やる気ホルモン)を伝達する
モノに抵抗があるなら、喜びを与えられるように正しくほめられるかどうかがポイントになる
つまり
物的、心的の違いがあるだけで、重要なことは、いかにうまく報酬を与えられるかだ
報酬の使い方や人のほめ方をいろいろな角度から考えて工夫してみてはどうだろう
大切なことは
モノで釣ってやらせようとするのではなく、ヒトの動機や誘因に報酬をうまく利かせて、習慣化の獲得に役立たせられるかどうかということ
自由意志は幻想にすぎない
ヒトの行動は過去の行動の結果である
バラス・スキナー
ヒトの行動は過去の行動の結果である
バラス・スキナー
勉強の習慣化のまとめ
スキナーらによって1957年に発表された行動科学の革新的な理論
ヒトをはじめとした動物は、さまざまなスケジュールで行動が強化され、それが結果がつながっている
しかし
人間は単純な介入ではすぐに慣れるし、状況によって価値観も変化する
習慣化の恩恵を存分に享受するためには 心理学的な理論とアイデアを 教育という高度な知的活動に 巧みに織り交ぜていくことがポイント
そのような介入をするためには 豊かな発想 が必要になる
半世紀以上経過したが今の時代にもよくあてはまる 普遍的な理論
私たちはまだ、その知見をうまく使いこせているとはいえないが、介入の質や量をうまく操作すれば、勉強の習慣化への効果を高められるはず
勉強を習慣化できれば 受験で生じる大部分の問題は解決する
失敗する子は
それでも
行動できない子
行動しなければ…とわかっているのになかなか行動できない
あれもやりたい、これもやりたいで、行動するための十分な時間さえ確保できない
そして結局
一番大切なものを失ってしまう
一番ムダな時間は うじうじしている時間
成功から遠ざかる理由は 一番大切なことに全力を注げない ということ
実はこれらの問題は
家庭が生じさせていることが多い
・安易にうじうじできる場所が家庭にないか
・大切なことがあいまいになるスキマが養育方針の中にないか
いろいろ考えて良かれと思ってやっていることが
継続的な行動のさまたげになったり、本来の目標とはかけ離れた行動に時間を注ぐ結果を生み出したりすることが多い
勉強の習慣化は親子で取り組むのがもっとも効果的
誘惑をとりのぞいて、学業に専念できる環境を整え、習慣化を成功させていこう!
本当にむずかしいことは
学習法を変えること
たとえば
数学的問題解決を成功させる指導法へ応用するためには 認知的に深い行動の習慣化 を図る必要となる
馬を水辺に連れて行くことはできても
水を飲ませることはできない
確かな知識と豊かな発想でこの問題に取り組むことが今後の課題だ
参考文献
Ferster, C. B., & Skinner, B. F. (1957). Schedules of reinforcement. Appleton-Century-Crofts.
https://doi.org/10.1037/10627-000
この理論を世界で最もわかりやすく説明しているビデオクリップ(たぶん)
Learning: Schedules of Reinforcement
https://www.youtube.com/watch?v=GLx5yl0sxeM