要約
運動技能の記憶は、最初に練習中に壊れやすい形でオンラインでエンコードされ、次にオフラインの強化によって安定した形に変換されます。これは、学習を成功させるために重要な行動段階です。社会的報酬である賞賛は、モチベーションを高めることによって運動技能の学習を後押しし、それが練習の増加につながると考えられています。ただし、強化に対する賞賛の影響は不明です。ここでは、運動トレーニング後の賞賛がスキルの統合を直接促進するという仮説を検証しました。 48人の健康な参加者は、連続的な指タッピングタスクのトレーニングを受けました。トレーニング直後は、自分のトレーニングパフォーマンス(成績)が褒められた、他の参加者の成績が褒められた、何も褒められなかった、の3つのグループに分けられました。学習した手続き(問題)のサプライズリコールテスト(抜き打ちテスト)を実施すると、自分のパフォーマンスが評価された参加者は、他のグループの参加者と比較してオフラインでの改善率が大幅に高かった。一方、新規の手続き(問題)と順番をランダムにした問題のタッピング平均パフォーマンス(成績)は3つの実験グループ間で違いはなかった。これらの結果は、賞賛による運動技能記憶の向上がフィードバックによって誘因が生じるしくみによるものではなく、オフラインでの記憶強化プロセスへ直接的な影響を与えることを初めて示しました。(AbstractをGoogle翻訳後、加筆修正)
ノート
そもそも練習後1日経つ(一晩寝る)と運動スキルは高まるとされる(睡眠による記憶強化; cortico-striatal loop)。
本研究はさらに自分がほめられることが効果を高めることを示した。
自分がほめられる>他の人がほめられる=だれもほめられない
ほめられるとどうして成績があがるのか
賞賛は金銭報酬と変わらない社会的報酬であることが近年の研究で示され(Izuma et al., 2008)、快楽や幸福感、やる気を生み出す。脳科学的には賞賛がドーパミン作動性の長期記憶と関連をもつ腹側線条体(+中脳)を賦活させる。そのため、ほめられると運動スキルが高まると議論されている。
関連と意義
研究所の同僚からもらったOBの論文でした。
ほめるだけで睡眠時の記憶強化が高まるというのはおどろき。腹側線条体(神経科学)を仲立ちとして動機づけと認知スキルの関連を仮説し、シンプルな行動実験パラダイムで実証した点が優れた研究といえる。シンプルがゆえに、教育にも医療にも応用できる知見である。
検討すべきこと
運動以外の認知スキル(数的・言語処理スキル、宣言的記憶など)に賞賛と睡眠がどのような効果を与えるか。